産婦人科ノート

駆け出し産婦人科医の忘備録です。覚書程度、実臨床では正式なデータを参照してください。

カブレラ配列

急性心筋梗塞(AMI)における心電図の読み方をテーマとするm3.com研修最前線、自治医科大学附属さいたま医療センター「総合回診」シリーズ第65弾。第2回は、誘導の表示順を変えることで心電図を読みやすくする「カブレラ配列 (Cabrera sequence)」について理解を深める。ジュニアレジデント2年目、眞鍋尭彦氏の解説。

前回の記事 『AMI疑い例が搬入、心電図をどう読むか』 はこちら
四肢誘導の表示順を並び替えると…
眞鍋尭彦氏(以下、眞鍋) 12誘導心電図と解剖の関係について簡単に復習します。

 aVR誘導は上行大動脈起始部を示し、V1からV4は壁面運動と冠動脈支配の領域を表します。III誘導は右冠動脈(RCA)を、aVFは下壁の中心部、II誘導は左回旋枝(LCX)を表します。側壁は、前方からV4、V5、V6となり、-aVR誘導(aVR 誘導を上下反転させた誘導)は心尖部を表します。

 12誘導心電図を心臓と四肢誘導の位置関係に基づき、分かりやすく並び替えた「カブレラ配列」という考え方があります。AMIや肺血栓塞栓症、たこつぼ型心筋症をより視覚的に捉えられる診断法として有用とされています。

 具体的には、従来の12誘導心電図では、I、II、III、aVR、aVL、aVFの順番に表しますが、この並びをaVL、I、-aVR、II、aVF、IIIに並べ替える方法です。


 この順番を並び替えるとaVL、I、-aVRは側壁を、II、aVF、IIIは下壁を示す順となり、心電図の所見を視覚的に捉えやすくなります。


前壁梗塞の狭窄部位を心電図から読み取る
 AMIで障害されている冠動脈を心電図からどのように判定するかについては、Zimetbaum Pらが提唱したアルゴリズムがあります(N Engl J Med 2003; 348: 933-40)

 前壁梗塞では一般的にV1からV3のST上昇を認めますが、Zimetbaum Pらのアルゴリズムでは、

V1-3のST上昇のうちV1上昇が2.5mm以上で、Q波を伴う右脚ブロックがあるときはLAD近位部に狭窄あり(感度12%、特異度100%)。
V1-3のST上昇と、II、III、aVFのST低下を認めたときにはLAD近位部の狭窄を疑う(感度34%、特異度98%)
V1-3のST上昇のほか、II、III、aVFのSTの変化がないか、上昇を認めたときにはLAD遠位部に狭窄があり(感度66%、特異度73%)
――とされています。


 下の例はLAD♯6に狭窄がある症例の心電図ですが、前壁を示すV1‐4およびaVRはST上昇、下壁のII、III、aVFはST低下が確認でき、LAD近位部の狭窄を示唆するアルゴリズムに当てはまることが分かります。


 下はLAD♯7の狭窄の心電図です。V1‐4でST上昇を認めますが、I、aVL、II、III、aVF、aVRではST変化が認められません。LADのより遠位の狭窄を疑うべき所見であることが、この心電図から分かります。


II誘導ST上昇優位時にはV5-6も見る
 側壁梗塞の所見です。LADでも第一対角枝(First Diagonal)に異常があるときには、I、aVL、V5‐6でST上昇を認めます。LAD♯9の狭窄・閉塞を疑う所見です。


 下壁梗塞では、II、III、aVFのSTが上昇しますが、狭窄部位についても心電図から読み取ることができます。ST上昇が右冠動脈(RCA)を示すIII誘導でより優位な場合は、RCAの狭窄をより疑います(感度90%、特異度71%)。

 一方で、II誘導のST上昇が優位のときには回旋枝(LCX)の狭窄が疑われますが、このときV5‐6誘導を加えて見ることで、感度80%、特異度96%と精度の高い部位診断ができるとされています。

 なお、右室梗塞が疑われるときには、必ずV3R誘導、V4R誘導を取るようにしてください。これらのことはガイドライン(循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)「非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン」)にも記載されています。(つづく)